歯肉炎・歯周炎の分類

歯肉炎・歯周炎の分類

歯肉炎・歯周炎の分類

今回は「歯肉炎・歯周炎の分類」についてお話ししたいと思います。
歯肉炎と歯周炎はプラーク関連の疾患と言われます。また、歯肉炎は歯周炎の前段階であり、放置する事で歯牙周囲組織の喪失を招きます。
歯肉炎・歯周炎に関する分類は数年に一度改変されるため、今回の分類は少し古いものになりますが参考になればと思います。
では早速内容に入っていきたいと思います。

Vol.8 ~歯肉炎・歯周炎の分類~

<歯肉炎>
・歯肉炎(プラーク性歯肉炎、単純性歯肉炎、タイプⅠA1)

歯肉炎は広範囲に存在し、細菌によって誘発された辺縁歯肉の炎症(非特異的混合感染)です。子供にはT細胞優位な初期病変(歯肉炎)が何年も持続しますが、成人では持続性病変はそのほとんどが進行した(確立期)歯肉炎(形質細胞優位)であり、種々な程度に進行する可能性があります。
歯肉溝とは、健康な歯肉辺縁のことで最大0.5mmの深さがあります。歯肉ポケットとは、接合上皮の歯冠側部で歯面から離れている部位のことで、真のアタッチメントロスはありません。仮性ポケットとは歯肉腫脹により生じた結合組織付着の喪失のないポケットのことで、酸素が少ないため歯周病原性嫌気性細菌が増殖しやすい環境です。
歯肉炎は、治療により完全に治癒します。また、確立期歯肉炎の臨床像と病理組織像は良く関連しています。健康な歯肉に見られる軽度な細胞浸潤は少量のプラークに対する宿主応答であり、これらのプラークはグラム陽性球菌と桿菌により構成されています。
その最初の臨床症状としては、歯肉溝プロービングを行なった後に生じる出血です。確立期歯肉炎になると、プロービング後の多量の出血、発赤、浮腫性の腫脹を認め、重度の場合は、自然出血と潰瘍が生じます。

・潰瘍性 歯肉炎/歯周炎
(NUG/P=壊死性潰瘍性歯肉炎/歯周炎、タイプⅤAとⅤB)

潰瘍性歯肉炎は、通常急性で痛みを伴い、急速に進行する歯肉の炎症です。治療がなされないと、急速に限局性潰瘍性歯周炎へ進行します。アタッチメントロスが進行するにつれ歯肉組織が壊死して失われるため、プロービングデプスは通常浅くなります。
限局性因子は、口腔清掃不良、スピロヘータ、紡錘菌、P.intermedia、喫煙です。全身性因子は、健康状態不良、喫煙、年齢(15~30歳)です。
臨床状態は急性ですが、発熱は極めて稀で、2~3日以内に歯間乳頭が潰瘍により失われる事もあります。宿主抵抗性の改善や含嗽等により治療する事で、急性期が慢性化する可能性もありますが、治療しない場合は高い再発率を示し、急速に潰瘍性歯周炎へ移行する可能性があります。
治療法は、局所的なデブライドメント、初期段階での薬物療法、コルチゾンあるいは抗生物質、メトロニダゾールを含む軟膏の局所塗布です。重症例では、全身的なメトロニダゾールの投与、改善後の歯肉手術の可能性があります。
病理組織学的所見として、接合上皮での大量の好中球浸潤があり、歯間乳頭の先端方向にも浸潤し壊死性の破壊へと繋がり、コラーゲンの破壊も急速に進行します。
臨床症状としては、歯肉の壊死性破壊、潰瘍、疼痛、口臭、特異的細菌です。壊死性破壊は歯間部コルから始まり、歯間乳頭全体から歯肉辺縁まで潰瘍性に進行します。放置されると、歯周支持組織の歯槽骨にまで進行し、局所疼痛を伴います。妙な甘ったるい口臭が特徴です。

・ホルモンが関与する歯肉炎(タイプⅠA2a)
(思春期性歯肉炎、妊娠性歯肉炎、ピル関連性歯肉炎、月経時や月経期間中の歯肉炎、更年期の歯肉炎)

身体のホルモンバランスの変化は、歯肉の炎症を引き起こすことはないですが、すでに存在しているプラーク誘発性の歯肉炎(プラーク性歯肉炎)を増悪させる事があります。プラーク性歯肉炎に関係するのは、インシュリン欠乏や女性ホルモンがあります。
全てに通じる治療法は、口腔清掃によるプラークや歯石の除去になります。必要に応じて、歯肉整形術を行う事もあります。


<歯周炎>
歯周炎は、人類の疾患の中で最も多くの人が罹患している疾患の一つです。侵襲性が強く急速に進行する型は、全症例の5~10%です。
また歯周炎は、多くの因子が関与する歯の支持組織の疾患で、微生物のバイオフィルムにより誘発されます。歯肉炎からの進行発症が多いですが、微生物の量と毒性、宿主の抵抗因子が歯周組織破壊の初発と進行の第一決定要因となります。
分類は、慢性歯周炎(タイプⅡ)、侵襲性歯周炎(タイプⅢ)、壊死性歯周炎(タイプⅤB/NUP)に大きく分けられ、主体となるタイプⅡとⅢは、さらに局所性(A:罹患部が全歯列の30%以下)と広汎性(B:罹患部が全歯列の30%以上)に分けられます。病変の進行度(クリニカルアタッチメントロスの程度)によって、軽度(1~2mm)、中等度(3~4mm)、重度(5mm以上)に分類されます。
では、それぞれの特徴を述べていきます。

・慢性歯周炎(タイプⅡ)
最も一般的で全歯周病患者の約95%を占め、30~40歳に見られ、全顎的にゆっくり進行します。細菌分布の多くは、P.gingivalis、P.intermedia、Fusobacterium nucleatum、A.actinomycetemcomitansです。治療法は、機械的療法がメインです。

・侵襲性歯周炎(タイプⅢB)
全歯周病患者の約5%、20~30歳の若年者、女性に多く、存在歯の多くが罹患します。細菌分布は、P.gingivalis、T.forsythia、P.intermedia、Fusobacterium nucleatum、A.actinomycetemcomitansです。治療法は、機械的療法で、重症例のみ補助的に全身的な抗菌療法を用います。

・侵襲性歯周炎(タイプⅢA)
稀な疾患で、13歳前後の思春期で見られ、女性に多く、上下顎の第一大臼歯および切歯に発現します。クレーター状の骨欠損を認めます。細菌は、多くの場合A.actinomycetemcomitans(約90%)が存在します。治療法は、早期の診査診断と徹底した機械的デブライドメントと薬物の全身投与療法で進行は阻止でき、骨欠損も次第に再生します。

・思春期性歯周炎(タイプⅣB)
極めて稀で、乳歯の萌出直後に発症し、遺伝性異常(常染色体劣性形質遺伝)および全身性障害(低フォスファターゼ症)と関連している事が多いです。急速に進行し、通常広汎性です。治療法は、局所型の場合は機械的療法と全身的な抗菌療法の併用により進行を止める事ができますが、広汎性の場合は治療を行っても治癒しにくいと言われます。

歯周炎はすでに存在するプラーク性歯肉炎から種々の速度で進行するため、臨床的データのみで歯周炎のタイプを判定するだけではなく、病理形態学的にどの段階に病気が進行しているか、つまりアタッチメントロスがどの程度まで進行しているかを判断する必要がある。

・ポケットとアタッチメントロス
真性歯周ポケットには2つの型があり、骨縁上ポケット(水平性骨吸収を伴う)と、骨縁下ポケット(垂直性骨吸収を伴う)です。ポケットの水平性と垂直性は、槽間中隔、頬側と舌側の骨の厚さによります。真のアタッチメントロスは、プラーク細菌やプラーク中の代謝物質が原因で生じ、その破壊の範囲は、プラークから放射状に約1.5~2.5mmです。

・垂直性骨欠損の分類
1壁性、2壁性、3壁性、4壁性、複合性骨欠損、に分かれます。
これらに加えて、次の因子が骨吸収の形態に重要な役割をしています。ポケット内の特異的細菌により誘発される局所的な急性発作、局所的に口腔清掃が不良、歯の叢生や傾斜、歯の形態、等です。残存する骨量は治療後の骨再生の可能性に影響を与えます。

・根分岐部病変
他根歯周囲の骨欠損は、2根や3根性の根分岐部に病変が進むと、病状の悪化、膿瘍形成、アタッチメントロスの進行、歯周ポケットの深化が起こりやすくなります。


根分岐部病変の分類は、Humpらにより水平的に3つに分類されました。
クラスF1:根分岐部の水平方向のプラービングデプスは3mm以内
クラスF2:根分岐部の水平方向のプラービングデプスは3mm以上で貫通なし
クラスF3:根分岐部は貫通し、プローブは完全に通過する
また、垂直性骨吸収による分類も、根分岐部の頂部からのmm単位で行われています。
サブクラスA:1~3mm
サブクラスB:4~6mm
サブクラスC:7mm以上

治療法、クラスF1とF2の根分岐部病変は、ルートプレーニングあるいはフラップ手術により治療可能です。クラスF3は、通常ヘミセクションや歯根切除法により治療します。


参考文献:永末 摩美(2008)「ラタイチャーク カラーアトラス 歯周病学 第3版」p79-104 永末書店

日本歯周病学会認定研修施設 医療法人社団 幸誠会 たぼ歯科医院

一覧へ戻る