歯周病発病のメカニズム
当院では日本歯周病学会認定研修施設として常勤歯科医師、衛生士の歯周病に関する専門的な知識の習得を目標に1週間に1度、朝に抄読会を行なっています。
抄読会を通して歯周病に関する文献、論文を読み合わせをすることでスタッフ間で歯周病についての共通の知識をもち、医院として患者様により専門的で高度な歯周病治療を提供していきたいと考えています。
今後は抄読会の内容について、院内ホームページで抄読会の内容の一部を掲載させて頂きます。
皆様の歯周病に関する知識の向上に役立てていただければと思います。
本日は歯槽堤の欠損、つまり歯を抜いた後あるいは何らかの原因で歯を失った後どのようなアプローチを選択したらいいかについて勉強しました。その内容について以下に記します。
Vol 7 歯周病発病のメカニズム
歯周病を初発させる不変的なリスクファクターとして歯周病原性微生物がある。またそのほかにも可変的なリスクファクターが存在し、その重要度や強さによって程度の違いはあるが歯周炎の進行に影響している。
可変的なリスクファクターは全身性と局所性に分けることが可能で、全身性;
・全身疾患
・喫煙
・ストレス
・薬
・教育、社会環境
・ライフスタイル
・環境
・栄養
局所性;
・唾液の質と量
・口呼吸
・外因性、機械的、化学的、熱性、腐食性、放射線性刺激
・アレルギー反応
・機能:咬合性外傷
・唇舌方向のクレンチング/ブラキシズム現象
・仕事に関連するパラファンクション
重篤な全身疾患、例えばコントロールされていない糖尿病や血液疾患、ホルモンバランスの崩れなどは歯肉炎や歯周炎の発症や進行の一因となりえます。
喫煙は重要なリスクファクターです。タール産物は歯肉に局所的な刺激を惹起し、ニコチンは交感神経を刺激して歯周組織の代謝を低下させ、タバコの燃焼物は多形核白血球の走化性反応に影響を及ぼします。
ストレスは、過度の仕事、社会的境遇、環境の影響などの様々な原因により起こり、免疫システムに悪影響を与え、前炎症性メディエーターを増加させます。前炎症性メディエーターは歯周炎に対する感受性の増加に関与します。
薬の副作用は歯肉炎や歯周炎の発症や進行の一端を担います。
教養が貧しく社会経済的な地位が低いことが、全身の健康と同様に口腔清掃に対する認識不足に繋がり、このことが歯周組織に悪影響を及ぼします。
好ましくない環境的因子は免疫システムの効率を悪化させ、感染に対する防御を弱くします。
栄養はプラークの形成速度と同時に組成にも影響を与えます。極端な食事や不適切な栄養の摂取は免疫システムを弱体化し、歯肉辺縁の観戦に対する宿主の応答能力を弱くします。
唾液は防御的機能を有しています。唾液中のムチンは保護膜として全ての粘膜表面を覆っています。唾液の抗菌活性は、分泌免疫グロブリン(sIgA)、リゾチーム、カタラーゼ、ラクトペルオキシダーゼやそのほかの酵素の含有量により決まります。
口呼吸は粘膜を乾燥させ、唾液の防御効果を失わせます。
外因性の刺激により、粘膜、歯肉、歯根膜などが様々な程度に傷つきます。
―機械的障害:歯ブラシや清掃補助器具の不適切な使用により、傷がついたり急性炎症を引き起こします。
―化学的刺激:局所的な薬剤や酸などの凝集により、歯肉や粘膜に病変が生じます。重症の場合には壊死が生じます。
―卑金属材料:例えば根管ポストピンが歯根破折により腐食し、その腐食物により歯根膜に害が及ぶことがあります。
―放射線による刺激:頭頸部の腫瘍の放射線治療により粘膜炎や口腔乾燥症を引き起こします。
アレルギー反応により軽度の紅斑が現れ、痛みを伴う水疱を形成します。
咬合性外傷、口腔顔面クレンチング現象などです。
<初期の炎症反応について>
健康な組織での反応
細菌性のプラークの代謝物はPMN(多形核白血球)を引き寄せます。最近の小胞やLPSからの蛋白質はLBPと反応します。走化性活性のある物質は組織や血管壁を直接的に刺激します。また血管壁近くの肥満細胞(MC)、またはマクロファージ(MΦ)により間接的に刺激されます。これらの細胞はさらに、前炎症性サイトカイン(IL-1,TNF)、MMP、PGE2やIL-8を産生します。その結果、歯肉溝近くの接合上皮細胞からケモカインが産生されます。走化性因子の濃度勾配は防御細胞(PMN)が血管壁から出て、バイオフィルムの方向へ向かいます。
血管の反応
末梢毛細血管は伝達物質との反応で拡張し、血流がゆるやかになります。内皮細胞や血流内の宿主の免疫細胞は血管壁へのPMNの付着を促すアドヘジンを発現し、さらに刺激を受けている組織へ血管から遊出するのを可能にします。
病理組織学
1976年初頭、PageとSchroederは論文の調査と彼ら自身の実験の結果をもとに歯肉炎と歯周炎の進行について病理組織学的に述べました。今日では以下のように考えられています。
初期歯肉炎
臨床的に健康な歯肉であっても、少量の多形核顆粒球(PMN)が接合上皮の中に遊走しています。このPMNの遊走が、上皮下のT細胞を含む歯肉溝の浸潤を伴っている場合には、この状態を初期歯肉炎と呼びます。初期病変はプラーク蓄積の抑制を受けず、8~14日後に生じます。小児の場合だけはこの段階の病態のまま長期間にわたり維持が可能です。
確立期歯肉炎
この歯肉炎は数年にわたり歯周炎に進行せずに存在することが可能です。特異的な細菌が原因で発症するのではなく、微生物の量やバイオフィルムの代謝産物に影響を受けます。プラーク蓄積3~4週後に出現し、その後多年にわたり進行なく存在することがあります。
歯周炎
歯肉炎から歯周炎への移行は、一つには、プラークの病原活性度の変化が原因であり、さらに感染に対する宿主の不適切あるいは不十分な応答およびリスクファクターの存在が原因となります。歯槽骨の吸収(アタッチメントロス)が生じます。
停滞期と進行期を区別することが可能で、ゆっくりと進行するタイプ(慢性)と急速に進行するタイプ(侵襲性)があります。
歯肉炎と歯周炎の病理組織学的な特徴は、症例ごとに変化に富んでいるため、疾患の型(急性転化や病状進行など)をクラス分けするのは難しいです。
分子生物学
Kornman,Page,Tonetteiは歯肉炎と歯周炎の発病のメカニズムを分子生物学および最新の遺伝子学的見地から記述しています。
Kornmanらは広範囲にわたる歯周病発病のメカニズムを4段階に分類しました。
ステージ1:プラークに対する初期反応
プラークの細菌は脂肪酸、ペプチドFMLP、LPSであり、これらは接合上皮細胞を刺激し、炎症性メディエーターを合成します。自由神経終末は神経ペプチドとヒスタミンを産生し、それらは局所の血管反応を高度に調節します。血管周囲の肥満細胞はヒスタミンを放出し、その結果、内皮は血管内にIL-8を放出する。IL-8はPMNを引き寄せます。
ステージ2:マクロファージの活性化と血清蛋白システム
この血清反応の結果、血清蛋白が結合組織中に流出し、局所の炎症反応を活性化します。その後、白血球および単球が局所に集まり、活性化したマクロファージは炎症性メディエーターおよび走化性物質を産生します。
ステージ3:炎症性細胞の活性の増加―接合上皮の剥離による歯肉ポケット形成
炎症性細胞浸潤はリンパ球が優勢で大半を占めます。活性化されたT細胞はサイトカインにより一連の反応を調節して働かせます。形質細胞はイムノグロブリンとサイトカインを産生します。活性化した多形核白血球は様々なサイトカイン、ロイコトリエンおよびMMPを産生します。活性化した線維芽細胞はコラーゲンの代わりにMMPとTIMPを産生します。
ステージ4:初期のアタッチメントロス
細胞浸潤のある結合組織内では、マクロファージの活性は高まり、強く統制された各種メディエーターと宿主の応答を伴っています。免疫担当細胞は多くのサイトカインおよびPGE2、MMP、およびTIMPを産生します。細胞浸潤のほとんどを形質細胞が占めます。障害を受けた組織の恒常性がコラーゲン、結合組織中の細胞外マトリックス、および骨の破壊を誘導します。歯周炎はその結果として進行します。
<アタッチメントロス>
結合組織の破壊
アタッチメントロスは歯周炎の活動期の主要な兆候の一つです。細胞外マトリックスとコラーゲン、例えば歯根膜繊維が破壊されます。この過程で重大なことは常在する線維芽細胞の活性の大きな変化です。
・慢性歯周炎では、とりわけマクロファージが最近の代謝産物によって活性化され、その結果、常在する線維芽細胞を刺激してPGE2や酵素のように破壊的な二次的なメディエーターを分泌させます。
・急性炎症と膿瘍においては、結合組織内の多形核白血球はきわめて高い濃度のケモカインにより活性化されます。呼吸状の破裂(バースト)とその後に、膨大な量の細胞溶解酵素が遊離し、宿主組織を破壊します。
歯槽骨吸収
歯周炎の組織破壊を引き起こす因子はLPS、LTA、などのような細菌関連物質です。これらはIL-1、TNFα、IFNγおよび成長因子のようなサイトカインとメディエーターおよびPGE2、MMP、その他の局所因子の放出を増加させます。
これらの因子は破骨細胞の活性を直接増加させるか、あるいは間接的に前駆破骨細胞に働きかけ、骨吸収を行う細胞の蓄積を促す働きを持っています。
歯周炎の急性期にはLPS、LTA、ペプチドグリカンのような細菌の産生物質により、歯槽骨吸収が直接始まることが明らかになっています。
歯肉炎から歯周炎へ
1993年にOffenbacherらは、いわゆる歯周病原性細菌の存在が、ある患者では歯肉炎に、別の患者では歯周炎に関与するかを説明する有力な概念を提唱しました。好中球性顆粒球(PMN)が最も重要な役割を演じます:PMNに血管外遊出能の欠損、走化性に対する反応の低下、運動性の不足、細菌を貪食し消化する能力の障害がある場合には、PMNは細菌の侵入や歯肉縁下プラークの形成を阻害できなくなります。さらにPMNの数が極めて少ないか、細菌が選択的にPMNを回避する能力がある場合には、臨床的に明確な確立期歯肉炎が生じます。慢性歯周炎あるいは侵襲性歯周炎の進行は、免疫防御機能や遺伝的に確定された炎症反応および組織の治癒能力によって決まってきます。
歯周炎の周期的進行
安定期病変―活動性進行病変について
歯周炎は持続的に進行することは滅多にありません。最も多くみられる症状は、個々の歯あるいは個々の歯面で周期的に“突発的に”アタッチメントロスが生じます。急性期には、グラム陰性の嫌気性菌と運動性菌の数が増加します。極めて短期間で組織内へ直接的な細菌の侵入が生じます。この細菌の侵入は、宿主の急性防御メカニズムを活性化し、マイクロネクローゼあるいは膿瘍を形成します。アタッチメントロスはコラーゲンの破壊を介して起こってきます。
歯周組織の感染と全身疾患の関わりについて
下記の全身疾患は歯周炎との相互作用が明らかとなっているかあるいは推測されています。
・心臓血管系疾患:狭心症、心筋梗塞、心内膜炎
深い歯周ポケットを有する歯周炎は、冠状動脈心疾患にかかるリスクを増加させています。またグラム陰性菌の感染症は全身的に活性を有するサイトカイン、成長因子およびプロスタグランジンを含む炎症性メディエーターが脈管系に流れ込むことと関連しています。例えば、口腔内に存在するStreptococci、とくにS.Sanguisは、危険な心内膜炎を引き起こしたり助長します。
・妊娠中の問題:未熟児、低体重児、新生児死亡率の上昇
陣痛の開始とそれに続く出産はプロスタグランジンに大きく影響を受けます。これらのプロスタグランジンは歯周炎の患者で増加していることは以前から知られています。
・脳卒中、脳膿瘍
・肺感染症
病床の患者や寝たきりの患者、特に継続的な介護が必要な患者は、多くの場合口腔清掃不良で、プラークが多量に沈着しています。この沈着は呼吸器官への潜在的な病原菌侵入の重大な温床となります。
・糖尿病
急性感染症とインスリンに対する反応性の低下には相関があり、感染が長期間にわたると糖尿病の臨床的回復を妨げる結果となります。
<指数>
歯肉と歯周組織の炎症性疾患の症状と原因因子は、質的指数および量的な指数を用いて臨床的に評価することができます。
指数は、個人開業医における患者のデータとしても使用されています。とくにプラークと歯肉炎はすでに数値で評価されています。
歯周炎の予防または積極的な治療中に繰り返し指数を評価することは、患者様の動機付けと協力の程度、および治療の成功や失敗の程度を確認する助けとなります。以下の指数があります。
・プラーク指数
プラーク指数(PI)
隣接面プラーク指数(API)
歯肉炎指数
プロービング時の出血(BOP)
歯間乳頭部の出血指数(PBI)
歯肉炎指数(GI)
歯周炎指数
歯周病指数(PDI)
歯周治療の必要性を示す共用指数(CPITN)
歯周病のスクリーニングと記録(PSR)
歯肉退縮指数
参考文献:永末 摩美(2008)「ラタイチャーク カラーアトラス 歯周病学 第3版」 p52―78 永末書店
日本歯周病学会認定研修施設 医療法人社団 幸誠会 たぼ歯科医院