老年歯周病学 ~高齢者の歯周組…

老年歯周病学 ~高齢者の歯周組織~

老年歯周病学 ~高齢者の歯周組織~

今回は「老年歯周病学 ~高齢者の歯周組織~」についてお話ししたいと思います。歯周病は様々な因子によって引き起こされ、また様々な環境によってもその状態は変化します。高齢者の場合は、さらに複雑な要因が絡み合い、治療方針も変更しなくてはなりません。
では、どのような要因を考えなければならないのかを、学んでいきましょう。早速内容に入っていきたいと思います。

Vol.4 老年歯周病学 ~高齢者の歯周組織~

異なった環境ー治療法の概念の修正
全人口における高齢者の比率は増加し続けており、先進国と発展途上国との間には人口増加の差が生じています。発展途上国では、高出産率により若年層が幅広い人口分布となり、先進国では、低出生率と平均寿命の増加により”腹型”の人口分布となっています。
世界保健機構WHOは、老年齢層を4つのクラスに分類し、熟年:45~60歳、初老年:61~75歳、老年:76~90歳、超老年:91~100歳としています。
高齢者の増加にも関わらず、以前に比べて総義歯の装着者は少なくなっています。これは、20世紀後半にう蝕と歯周病の病因と病態の知識が広まった事が原因と考えられます。
歯科治療技術と予防戦略は、発展・洗練し続け、長期にわたる天然歯のメインテナンスが可能となってきています。
今日では、歯肉炎、歯周炎および歯肉退縮の治療のための科学的根拠に基づく治療概念が存在しますが、人口の年齢分布の変化に伴いこの概念は再考する必要性があります。
高齢者に存在する(増加する)事として、経験、対人関係の巧さ、会話能力、精神力、信頼性、自己満足、同情、親切、が挙げられます。
一方、減退する事として、免疫応答、組織の再生能力、身体能力、唾液量などです。

歯周組織の構造的 / 生物学的変化

歯周組織には、他器官と同様に臨床的、組織的、生物学的変化が起こりま
す。歯周組織にとって重要なことは、歯肉(上皮と結合組織)、歯根膜、歯槽骨の構造、生物学的な加齢変化です。治癒(再生能力)は加齢とともに低下します。では、それぞれの特徴について述べていきたいと思います。
まず「上皮」についてです。
歯肉上皮の変化は上皮下結合組織により支配されています。高齢者は全ての粘膜表面が若い人より機械的刺激に対し敏感です。組織学的には、歯肉の角質層の減少および有棘層の萎縮が見られます。
続いて、「結合組織」についてです。
年齢に伴った結合組織の変化は歯肉においても歯根膜においても見られます。線維芽細胞の数(細胞分裂能)は減少し、コラーゲン合成は減少します。同時に、有機マトリックスが減少しヒアリン帯が形成されることで、軟骨様変性や石灰化変性を起こしマラッセ上皮遺残の数は減少します。一方、細胞生線維セメント質は、根尖側1/3、根分岐部で増加します。歯根膜の幅は狭くなり、血管新生は減少します。
続いて「骨」についてです。高齢者では、骨全体の骨粗鬆症的変化(緻密な皮質骨の吸収と骨髄腔の拡大)が顎骨に影響を与えますが、口腔内においてはこれらの吸収性の作用は以前考えられていたほど重要な影響を示しません。
最後に「治癒」についてです。
高齢者においては、全ての組織において幹細胞は減少しますが、その活性度は変わらず残っています。問題は、完全治癒に至る生物学的変化の暫間的な一連の経過で、若年者に対し有意に長くなっています。

加齢性変化ー治療計画に及ぼす影響

歯周治療を開始する前に以下の条件を満たす必要があります。
・患者の時間的余裕、理解、精神的弾力性
・口腔清掃に対する持続的で適切な協力度
・良好な全身の健康状態
・リスクファクターの減少
高齢者であっても精神的にも身体的にも健康であれば、若年者と同様に最良の治療を要望する事が多いです。一方、そうでなければ治療の面での妥協を余儀なくされるため、「もっとも必要な治療」や「無痛的治療のみ」を適応する事もあります。
糖尿病、アルツハイマー病、腫瘍、自己免疫疾患、パーキンソン病、血液疾患などの重度の全身疾患、投薬治療の副作用は、口腔/歯科治療計画に重大な影響を及ぼします。
統計学的研究は、歯周病が高齢者では若年者に比べてより速やかに、より重度に進行する事を示していますが、歯周炎はもはや「老人性疾患」の範疇には入りません。
高齢者には、全身の健康問題と口腔清掃の困難さに加えて、歯列には咬耗、摩耗、歯肉退縮、歯の変色などの年齢を示す徴候が現れます。
治療計画の修正に関して、高齢者でも精神的にも身体的にも健康な患者は、通常歯科治療計画の変更をする必要はありません。しかし、精神的、肉体的な障害がある患者では、治療計画を現在の状態に適応させる必要があります。予後が疑問視される歯はおそらく抜歯すべきで、人生の最後まで保存が期待できる歯に対してのみ特別な方法で歯周治療を行うことになります。
高齢者では、どんなに費用をかけても保存する必要があるわけではありません。むしろ、良好な口腔(健康、機能、発音、審美)に対する感性の問題であり、患者自身の価値観の問題となります。
参考文献:永末 摩美(2008)「ラタイチャーク カラーアトラス 歯周病学 第3版」p515-518 永末書店
日本歯周病学会認定研修施設 医療法人社団 幸誠会 たぼ歯科医院

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