病気の実態と診断
今回は、「病気の実態と診断」の項目から、①宿主反応の検査、②予防-予防処置、「治療法」の項目から①炎症性歯周病の治療、②歯周組織の創傷治癒、についてお話ししたいと思います。
Vol.16
「病気の実態と診断」
- 宿主反応の検査
「診断」
診断は、一般的に全身的な病歴と特異的な局所の病歴、つまり患者の全身的な健康状態、リスクファクターの存在および患者のリスク行為によって左右されます。
アメリカ歯周病学会1999年によると、慢性歯周炎(タイプⅡ)、侵襲性歯周炎(タイプⅢ)、全身疾患に関連する歯周炎(タイプⅣ)を分類する必要があり、異臭病の進行度(軽度、中等度、重度)と罹患範囲(限局性、広範性)を決める必要があります。
口腔全体の歯周病の診断として、歯肉炎、歯周炎、歯肉退縮を評価して判定すします。歯肉炎と歯周炎、歯肉退縮が口腔内全体で同じ重症度であることは極めて稀です。全歯面の30%以下が罹患している時は限局性、罹患部の範囲が広ければ広範性と言います。
1歯単位の歯周組織の診断として、歯周炎は広汎性の疾患ではなく限局性の疾患であり、多くの場合1歯単位で異なっていることが明らかになっています。広汎性の概念の中には、遺伝的素因、全身的素因および種々な一般的“リスクファクター”が含まれています。
「予後」
初期の臨床所見(検査結果)と仮の診断から得られた初期の予後の判定は、治療の進行中および終了後に、再検討する必要があります。
一般的に、慢性歯周炎は予後が良く、急速進行性で活性型(侵襲性)の歯周炎は予後が不良です。
臨床医は、口腔全体の予後判定因子と局所的な予後判定因子を判定する必要があります。
患者の口腔全体の評価、患者の希望とその可能性、および歯周病の診断、1歯単位の予後判定評価が、治療計画を徹底的な治療にするか、保存的な治療にするか、あるいは一時的な応急処置的な治療かを決定します。
- 予防-予防処置
「予防」とは、疾患の発病を阻止する医学的、歯科医学的処置で、大きく3つに分類されます。
- 一次予防は、疾病の発病因子のことです。
- 二次予防は、疾病の早期発見と早期治療のことです。
- 三次予防は、すでに治療を行い治癒した疾患の再発防止と再発の予防のことです。
「予防処置」とは、疾患の予防のことで、2つに分類されます。
- 口腔予防処置は、歯面付着物、プラークと歯石の機械的除去です。
- 抗菌的予防処置
歯周炎の予防は継続的に適切に行えば良好な結果が得られることが研究により証明されています。歯肉炎と歯周炎の初発因子はマイクロバイオフィルムで、バイオフィルムが存在しなければ辺縁歯肉の炎症は起きません。そのため、予防と予防処置には、常にプラークと歯石の除去、および適切な口腔清掃を行うための患者へのモチベーションが含まれます。
プラーク・フリーの状態が理想的ゴールです。適切なリコール間隔が確立され維持されている場合には、歯肉と歯周組織の状態は悪化しないことが立証されています。微生物が全く存在しなければ歯肉炎や歯周炎は起こりません。しかし、プラーク細菌が存在するからと言って全ての症例で歯周炎が起きるわけではないのです。患者の感受性、免疫応答、変更不可能なリスクファクター、および変更可能なリスクファクター、宿主の感染に対する感受性などが、歯周炎の発症と進行を決定づけています。
現時点で私たちにできることは、変更可能なリスクファクターに影響を与え、減少させることだけです。歯周炎を発症あるいは助長する全身疾患は適切な治療を行う必要があります。最終目標は、ストレスが少ない状態で、全身的に健康なライフスタイルです。
「治療法」
- 炎症性歯周病の治療
「歯肉炎、歯周炎」
歯肉炎と歯周炎は、主に細菌によって引き起こされます。したがって、感染に対する治療を主体に行う必要があります。
「治療概念と治療技術」
- 病原性細菌の除去/減少
- バイオフィルムの除去 - 原因除去療法
バイオフィルムの破壊により、宿主の防御機構と薬剤の局所投与による攻撃がしやすくなります。
- 修正治療 – 骨欠損の治療
- 宿主への影響
- 有益な微生物の保護
歯周治療後には口腔内に生態学的な恒常状態が存在する必要があります。この点から、機械的療法に加えて全身的薬物療法を補助的に行う場合には、“有用または有益な” 微生物を除去しない抗菌剤を選択することが重要です。
「治療―問題点」
歯周炎の治療の原則は単純で、歯面と歯根面の徹底的な清掃です。
天然歯の根面は粗造であり、特に細胞セメント質部と根分岐部は粗造です。セメント質粒やエナメル真珠が多く見られ、健康な状態であっても小窩が観察されます。このようなプラークが付着しやすい場所をルートプレーニングにより清掃するのは困難で、時間が必要です。
「歯周炎―治療目標、治療結果」
歯周治療の第1の目標は、炎症状態の完全な治療です。次の目標は、失われた歯周組織構造の再生です。
- 失われた全ての組織の完全な回復/再生
- 治癒/修復によるポケットの除去
- アタッチメントロスの進行停止
- 臨床的に診断可能な炎症状態の除去または減少
- 歯周組織の創傷治癒
歯周組織の創傷治癒は、人体における最も複雑な治癒過程です。5つあるいはそれ以上の組織(上皮、歯肉結合組織、歯根膜結合組織、骨、根セメント質)の細胞は、血管がなく生活していない根面硬組織と新しい結合を作る事が求められています。歯周組織の創傷治癒は、常時汚染され著しい“細菌量”が存在する開放系で起こる必要があるため、かなり複雑であり、各種の歯周ポケット治癒後の治癒結果に大きなばらつきがあります。
歯周組織の治癒では、癒着は失敗(歯根吸収)を意味します。
歯周病治療成功のために最も基本的に必要なことは、清潔で、バイオフィルムがなく、汚染が除かれた根面です。多くの症例で、このことが結合組織修復、長い上皮性付着および通常一部にポケットが残存する結果となります。
歯周組織欠損の再生では、骨欠損は自家骨または骨補填剤を用いて充填されており、バイオメカニカル物質(バリアー膜)は上皮組織の根尖側移動を防ぎます。その後シグナル分子が多機能性幹細胞の遊走と分化を導き、人工構造物あるいは自然構造物に誘導されて、基質形成と新組織の形成へと導かれます。課題として、”Regeneratio ad integrum(完全なる再生)”の達成、増大した軟組織及び特に歯槽骨と、感染して形態的に変化した根面よの完全に機能的な結合(新生歯根膜)の達成です。
続いては、「創傷の治癒と再生」に関してです。
医学専門分野からの多くの新しい知識により、過去20年間で歯周炎治癒のパラダイムは著しい変遷を遂げています。
今日の歯周炎の治療は、厳格な抗感染および抗微生物の概念によって導かれ、各治療法の術式が存在していますが、まだガイドラインは存在しません。
歯周組織の創傷治癒の用語としては、以下に示します。
・再生(Regeneration)
形態と機能の完全な再生
・修復(Repair)
本来の正常な組織形態と機能の再生を伴わない状態で創傷や欠損部を元に戻すこと(長い接合上皮性付着など)
・新付着(New attachment)
以前に病理学的に露出していた根面と結合組織の新しい結合、歯根膜線維が挿入する新生セメント質の形成
・再付着(Re-attachment)
結合組織と、根面上に残存する生活成分、例えばセメント質と歯根膜の残存部分との間の結合の再確立(ただし、上皮の再付着は起こらず、上皮は常に基底細胞層から生じる新しい細胞によって作られる)
・歯槽骨(Alveolar Bone)
これは、組織学的評価によってのみ示すことが可能です。
以上によって、区別されています。
参考文献:永末 摩美(2008)「ラタイチャーク カラーアトラス 歯周病学 第3版」p196-208 永末書店
日本歯周病学会認定研修施設 医療法人社団 幸誠会 たぼ歯科医院